個人再生委員/分割予納金と履行テスト

個人再生

個人再生は、借金の一部免除を得られるため、多額な借金が返せなくなったときの救済手段として非常に重要な債務整理の方法です。
特に、住宅ローンを抱えているケースでも、「住宅資金特別条項(いわゆる住宅ローン特則)」によって住宅ローン以外の借金を大幅に圧縮してマイホームを失わずに借金問題を解決できる点が最大のメリットです。

個人再生手続においては、裁判所をサポートするために「個人再生委員」が選任されます。個人再生委員は、債務者と面談したり、再生計画の認可に際して裁判所に意見を述べたりするなど、個人再生の成否に大きく関わってきます。

今回は、個人再生手続の概要を、個人再生委員の職務を中心に解説します。
なお、この記事では、個人再生の全件で個人再生が選任される東京地方裁判所(民事第20部)での運用をモデルに解説しています。

 

1.個人再生の手続の流れと個人再生委員の役割

個人再生の手続きと個人再生委員の職務(フロー図)

上のフロー図は、個人再生手続の大まかな流れと個人再生委員の職務との関係についてまとめたものです。申立からそれぞれの段階までの日数の目安は、東京地方裁判所民事第20部における一般的なケースを例に示しています。

個人再生委員は、手続の開始、債権の確定、再生計画案の作成・提出、書面決議、認可・不認可決定のすべての手続段階で、重要な役割を果たすことが期待されています。

1−1.東京地方裁判所では全件で個人再生委員が選任

個人再生委員は、申立債務者にとっても、裁判所にとっても「個人再生の成否」を左右させる非常に重要な存在です。

個人再生は複雑な裁判上の手続であるため、迅速適正に進めるためには、債務者・裁判所を適切にサポートする存在が必須といえます。

また、東京地方裁判所では、申し立てられたすべての個人再生事件で「履行テスト」が実施されるため、分割予納金の受領者としても個人再生委員が選任されます(予納金や履行テストについての詳細は後述します)。

1−2.他の裁判所の運用状況

個人再生委員をめぐる運用については、裁判所によって違いがあります。
ただし、弁護士に依頼せずに債務者本人による申立がなされたときには、全国どの裁判所であっても個人再生委員が選任されます。

言い換えれば、東京地方裁判所以外の裁判所では、弁護士に依頼することで、個人再生委員の選任を回避できる場合があるということです。

ただし、債権者から「債権評価の申出」がなされたときには、弁護士申立の場合でも、必ず個人再生委員が選任されます。

なお、司法書士に依頼した場合には、地域によって個人再生委員が選任されるところと、個人再生委員の選任が不要となるところがあります。

 

2.個人再生委員の職務

民事再生法第223条によれば、個人再生委員の職務には次のものがあります。

  • 債務者の財産および収入状況を調査すること(同法第1項)
  • 再生債権の評価に関して裁判所を補助すること(同法第2項)
  • 債務者が適正な再生計画を作成するために必要な勧告をすること(同法第3項)

裁判所は、上記のうちから1つもしくは複数を指定して、個人再生委員に職務を遂行させることができます。
東京地裁の場合には、原則として、すべての職務を指定しています。

2−1.個人再生委員との面談

東京地裁では、個人再生が申し立てられるとすぐに個人再生委員を選任します。個人再生委員に就任するのは、東京にある3つの弁護士会(東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会)に所属する弁護士となります。

個人再生委員は、選任されるとすみやかに債務者代理人(本人申立の際は本人)に連絡を取り、面接の日時を調整します。個人再生委員は、申立後3週間までに裁判所に対して「再生手続開始に関する意見書」を提出しなければならないため、申立から2週間以内に面談期日が設定される場合がほとんどといえます。

なお、面談は、選任された個人再生委員の法律事務所で行われるのが一般的です。

個人再生委員による面談の目的は、「申し立てられた個人再生手続を開始させて良いかどうかを判断」し、「分割予納金の金額を決める」ことにあります。

一般的には、次のようなことが行われます。

  • 再生手続開始原因の確認
  • 清算価値の確認
  • 収入・可処分所得の状況の調査
  • 再生債権の総額の確認
  • 住宅資金特別条項(住宅ローン特則)についての確認
  • 債権者一覧表の確認
  • 分割予納金についての確認

弁護士に申立を依頼している場合には、申立代理人の弁護士も同席してくれるので、特に緊張する必要はありません。また、債務整理に精通した弁護士に依頼していれば、面談の段階で特に問題が生じることもまずありません。

他方、本人申立の際には、面談の段階で問題が見つかることも少なくないようです。借金の金額が少なすぎて(1年以内に分割返済可能な場合など)個人再生することが不適当なケースや、逆に借金額が多すぎる(個人再生は住宅ローンを除いて借金が5,000万円以下の場合でないと利用できません)ケースもあるようです。
個人再生を利用すべきではないことが判明すれば、個人再生委員が取下げの勧告をすることもあります。

また、「住宅資金特別条項(住宅ローンは個人再生手続でも減額・免除されないことなど)」、「分割予納金(期限を守って納めなければ不認可となる場合があること)」について、正しく理解してもらうために説明することも重要なポイントとされています。

2−2.再生計画案作成に必要な勧告

個人再生では、裁判所に認可された再生計画に基づいて、借金の返済額(免除額)、返済期間・返済回数(頻度・1回あたりの返済額)が決まります。この再生計画は、裁判所が作成するのではなく、その案を債務者自身(弁護士に依頼した場合にはその代理人弁護士)が作成しなければなりません。

また、再生計画案は、裁判所が定めた提出期限(東京地裁の場合は申立から18週あたりで裁判所が具体的に決めた日)までに提出されなければなりません。提出が「たった1日でも遅れた場合」には、「再生手続廃止決定」が下されます。廃止になれば、借金の元金は個人再生申立前の状態に戻ってしまいますし、延滞利息等が加算されます。

再生計画提出後は、小規模個人再生手続の場合、債権者による書面決議が行われます。債権者の過半数が再生計画案に反対すれば、再生計画が否決されたことになり、再生計画は不認可となります。

個人再生委員は、裁判所の補助機関として中立な立場から「債務者にとって負担が過剰すぎず、債権者にとっても不公平ではない再生計画」が作成されるように、助言などの必要な措置を講じます。

本人申立の場合には、形式不備がある場合、返済額に問題がある(負担が重すぎる場合、否決されないためにより多く返済すべき場合)といったケースがあるようです。
しかし、弁護士に依頼している場合には、この段階でも問題となることはまずないでしょう。

再生計画案に問題がなければ、個人再生委員は、書面決議相当の意見を裁判所に提出します。

2−3.再生計画認可に関する意見書の提出

個人再生委員は、再生計画案の認可・不認可についての意見書を裁判所に提出します。

小規模個人再生の場合には、債権者の書面決議の結果が尊重されるため、この段階での個人再生委員の役割は比較的には大きくないといえます。

しかし、給与所得者等再生の場合には、債権者の意見を踏まえて提出される個人再生委員の意見は、裁判所の認可・不認可の判断に大きな影響を与えます。なぜなら、給与所得者等再生の場合には、債権者は意見を述べるだけで決議をすることはできないからです。

 

3.履行テスト

東京地裁の個人再生では、「履行テスト」が必ず実施されます。

個人再生では、再生計画認可後、3年から5年の分割返済をしなければなりません。これを「計画返済」といいます。

「履行テスト」は計画返済において想定される毎月の返済予定相当額を計画返済に先だって6回ほど個人再生委員の指定口座に振り込むものです。この「履行テスト」は計画返済を全うできる見込みがあるかどうかを裁判所及び個人再生委員が適正に判断するための材料を提供することになります。これは個人再生委員の報酬に充てられる予納金の分割納付を兼ねています。

3−1.予納金とは

個人再生における「予納金」は、「個人再生委員の報酬」に充てられる費用のことです。

予納金の額は、裁判所によって異なりますが、東京地方裁判所の場合には、「弁護士申立の場合には15万円」、「本人申立の場合には25万円」となっています。本人申立の場合の方が、個人再生委員の負担が重くなるため、報酬額も高く設定する必要があるからです。

3−2.履行テストの流れ

東京地方裁判所の場合には、個人再生委員が指定した銀行口座に、毎月決められた期日までに分割予納金を振り込む方法で、履行テストが実施されます。

「第1回目は、個人再生の申立後1週間以内」に設定され、「2回目は1回目から1ヶ月以内」、「3回目以後は1ヶ月ごと」となります。東京地裁の個人再生手続は、認可・不認可決定まで25週というのが基本モデルなので、6回の振り込みを実施する必要があります(冒頭のフロー図参照)。

分割予納金の金額は、「計画返済における毎回の返済額」です。したがって、実際の手続においては、個人再生を申し立てる段階で、即時に提出可能な再生計画案が作成されていることが望ましいといえます。

また、住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用する際には、分割予納金の額も「計画返済額+住宅ローン返済額(の一部)」となることがあります。この場合は、申立後個人再生委員と個別に相談して詳細を決定します。

ところで、東京地裁の履行テストでは、「借金総額が500万円を超える場合」、もしくは「清算価値が100万円を超える場合」には、分割予納金の総額が個人再生委員の報酬額を超える可能性があります。
履行テストはあくまでも「計画返済の遂行可能性」をテストするためのもので、予納金支払いの負担を軽減させる目的はないからです。

履行テストで支払った金額が個人再生委員の報酬額を超える場合には、再生計画認可決定後に代理人を通じて又は直接再生債務者(申立人)に返金されます。
返金された分を初回の計画返済に充てることも当然可能なので、履行テストの遂行は、計画返済を遂行する負担を軽減することにもつながります。

3−3.分割の予納金の支払いを遅延・滞納したら

分割予納金の納付について遅延状況がひどかったり、納付額が予納金として必要な金額に足りなかったりする場合には、個人再生委員により「認可不相当(不認可相当)」の意見が提出される可能性が高くなります。

分割予納金の支払いは、再生計画の認可だけでなく、その前段階となる個人再生手続の存続にも必須なのです。

3−4.他の裁判所の運用

予納金の分割払いによる履行テストを実施しているのは、東京地裁、さいたま地裁、横浜地裁、水戸地裁などです。

他の裁判所では、予納金の分納による履行テストの代わりに、「積立金」を用意するよう指示される場合もあるようです。それぞれの地域での運用については、債務整理の相談をした弁護士(司法書士)に確認してください。

 

4.個人再生のご相談はカヤヌマ国際法律事務所へ

「個人再生委員と面談する」と聞くと、「借金の理由がよくないと怒られるのではないか」と不安に感じる人もいるかもしれません。
しかし、個人再生委員は、とても複雑な個人再生手続をスムーズにかつ適正に進めるための裁判所補助機関ですし、弁護士に申立を依頼した場合には個人再生委員との面談に弁護士も臨席しますので、申立人の方が過度に不安を抱く必要はありません。

もっとも、個人再生は、場合によっては自己破産以上に提出書類が多く、記載事項もかなり細かくなります。本人申立で正しく進めるのは難しい場合が多いでしょう。個人再生を検討している人は、債務整理に精通した弁護士事務所に相談することをおすすめします。

東京都新宿区にあるカヤヌマ国際法律事務所は、債務整理全般を取り扱う法律事務所です。もちろん、個人再生の解決実績も大変豊富です。
新宿駅から丸ノ内線で約5分の四谷三丁目駅3番出口から徒歩で約1分という立地もあり、新宿区内の方はもちろん、近隣のエリア(港区、千代田区、中央区、豊島区、中野区、杉並区、世田谷区、渋谷区、練馬区、台東区、大田区など)、東京都全域、神奈川県、千葉県、埼玉県からも多数ご相談を承っております。

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