給与差し押さえと解除方法

どのような場合に給与(給料、賃金、賞与など)を差し押さえられるのか

裁判になる前の状況

ある日、突然に裁判所から給与の差押命令を受けるわけではありません。普通は、給与の差し押さえを受けるまでに、様々な段階を経ています。

借りたお金を返さないで、滞納してしまうと、最初は「電話」や「はがき」などで滞納していることを簡単に知らせてくるだけでしょう。

借りたことは分かっているんだけれど、今月はちょっと臨時の支出がかさんで、支払できなかっただけだよ、来月ならなんとか支払える、と思っていても、翌月の支払期日はあっという間に到来したりします。

そのようなことを繰り返していると、貸金業者も次第に貸金を回収するためには「手荒い」手段を取らざるを得なくなってきます。

支払督促の流れ

支払督促とは

このような場合に、貸金業者が裁判所を介してよく使う債権回収手段は支払督促です。貸金業者と借り主との間では、普通、お金の貸付、返済に関する経緯については、ほとんど争いがないでしょう。そのような場合には、貸金業者は支払督促を簡易裁判所書記官に申立て、書記官は貸金業者の主張が確からしいと書面のみから認められる場合には、債務者とされる者に事情を尋ねることなく、比較的簡単に支払督促を発することになります。

支払督促は裁判所から「特別送達」という書留便で郵送されてくる書類で、見ればすぐにわかるようなものですから、これを受け取ったら直ちに適切な対応をしなければなりません。放置すると後が大変です。

支払が滞っているはずですが、架空請求のおそれもありますから、まず、借入・支払の事実関係を調べる必要があります。

異議申立書の提出

たまたま忙しかったりして支払手続を怠っただけでしたら、裁判所には、支払督促に同封された異議申立書の用紙に異議がある旨を記載して受け取ってから2週間以内に裁判所の窓口まで持って行って直接提出するか、または、郵便で返送しましょう。時間稼ぎの意味でも、まずは異議の申立てをする必要のある場合が多いでしょう。

仮執行宣言付き支払督促の発令

もし、債務者が支払督促を受け取ってから2週間以内に異議の申立てをしなければ,簡易裁判所の書記官は,債権者の申立てにより,支払督促に仮執行宣言を付さなければなりません。

債権者は仮執行宣言付き支払督促に基づいて強制執行の申立てをすることが認められています。給与の差し押さえは強制執行の一種として認められています。

仮執行宣言付き支払督促への異議申立て

支払督促に対する異議の申立てを怠って、仮執行宣言付き支払督促を受け取った場合には、直ちに、これに対して異議の申立てをすべきです。この仮執行宣言付き支払督促に対する異議の申立ては、これを受け取ってから2週間以内であれば、認められています。

執行停止の申立て

ただし、仮執行宣言の付されている支払督促に異議を申し立てても,執行停止の手続をとらなければ,給与の差押えなどの強制執行を停止することはできません。

このように、支払督促への異議申立てを怠ると、後々の手続に時間と手間・費用が相当かかるので大変です。

異議申立て→通常の裁判手続へ:和解の試み

これらの督促異議が適法であると認められる場合には、通常の裁判手続に自動的に移行します。裁判所から第1回目の裁判期日の呼び出し状が届きますから、裁判所に行って、分割払いによる和解を試みるべきでしょう。毎月の支払金額に合理性があると認められれば、裁判所や司法委員が貸金業者を説得して、和解の成立に尽力してくれることがあります。

ここで分割払いの和解がうまく成立すれば、一括請求を受けていた場合でも、再度の分割払いによる期限の利益が与えられたことになり、とりあえず一件落着となるでしょう。

和解の失敗→判決

和解を成立させることができない場合には、厳しい状況が待っていることになります。判決になると残債務額を一括で支払う必要が出てくるからです。他にも借金があり、毎月の支払い額が厳しい多重債務の状況にあることが多いでしょう。

判決→給与・自宅などの差押え

このような状況に陥った場合には、すぐ弁護士に債務整理についてご相談されることをおすすめします。このまま放置しておくと、給与や自分名義の住宅などを差し押さえられることになるのは、時間の問題となるからです。

この段階で、弁護士に相談することなく、判決を放置すると、給与や自宅などを実際に差し押さえられるというさらに厳しい状況に直面することになります。

自宅を差し押さえられた場合の対処の仕方については、こちらをご参照ください。

給与差押えの流れ

給与差押命令の勤務先への送達

給与の差し押さえ命令は裁判所からまず第三債務者となる勤務先に送達されます。勤務先の経理担当から、給与の差し押さえ命令が裁判所から届いたことを告げられることで差押えを知るという流れが一般的でしょう。

給与差押えの効果→給与支給の禁止

勤務先としては、給与の差押命令書には、「第三債務者(勤務先の会社などです)は、差し押さえられた債権(給与の支払い請求権などです)について、債務者(従業員)に対し、弁済をしてはならない。」と記載されていますので、勤務先としては従業員に給料全額を支払うことはできません。

もし、債権差押命令に違反して勤務先が従業員に給与を支払った場合は、取り立てにきた債権者(貸金業者)には、すでに支払ったという言い訳(抗弁)をすることができませんので、差押えを禁止された範囲の給与を除いて、重ねて支払う義務があるからです。つまり、勤務先の会社は二重払いを強いられることになるのです。

給与差押は貸金業者が全額回収するまで続く

給与の支払い請求権のような毎月支払いを請求できる債権は「継続的給付債権」となり、これに対する差押えの効力は,「差押債権者の債権及び執行費用の額を限度として,差押えの後に受けるべき給付にも及ぶ」ことになります(民事執行法151条)。毎月の給与額から、貸金業者が請求している債権額が全額回収されるまで差押えの効力は継続されることを意味します。

給与はどの範囲まで差し押さえられるのか

そこで、会社の経理担当に、どの範囲で給与が差し押さえられるのか、現実にいくらが差押え禁止の額となり、会社から支払いを受けられる給与額はいくらであるのかについて確認し、今後の生活の見通しを立てる必要があります。

給与差押え禁止の範囲

いくら、強制執行だと言っても、最低限生活に必要だと法律上認められた金額については、差し押さえることができません。

それでは、どの範囲の給与額がこの差押え禁止となっているのでしょうか。

①「手取額」の基準

第1に、差押え禁止の給与額を計算する基準となるのは「手取額」です。給与の総額(諸手当を含みます)から、所得税、地方税、社会保険料が差し引かれます。また、通勤手当も差し引かれることが実務上認められています。

②-1 「手取額」の1/4が取られる(原則)

次に、「手取額」を基準として、毎月の給与の4分の3に相当する金額が差押え禁止となります。つまり、貸金業者が毎月回収できる債権額は、原則として、給与の4分の1までとなります。

②-2 但し、33万円以上は全額が取られる

「手取額」の1/4は最低限度の生活費を確保するという法の趣旨の表れですから、給与が多額の方の場合には、貸金業者はもっと回収できることになります。具体的には、標準的な世帯の必要経費を勘案して政令で定める額、現状では33万円、を超える額を全額差し押さえることができます。

例えば、毎月の手取額が60万円ある場合は、33万円を越える27万円が差し押さえ可能となりますので、支払いを受けられる額は差押え禁止となる33万円だけです。

また、毎月の手取額が20万円の場合でも、4分の1までは差押えることができますから、5万円が差し引かれ、勤務先からの支給額は15万円だけとなります。

このように、給与が差押えられると、最低でも4分の1の額が支払われなくなりますので、たちまち生活に行き詰まってしまうおそれがあります。このような事態に陥ってしまった場合は、もはや放置することはできません。生活を立て直すためには、一刻も早く、弁護士などの法律専門家に対応をご相談しましょう。

給与が差し押さえられた場合にはどうするか

~個人再生・自己破産の申立てにより給与の差押えをストップ!

注意)任意整理の方法ではストップできません。

個人再生申立ての場合

個人再生を申立てた後、給与差押えをストップする方法には、これを中止する方法と取消す方法があります。以下順番に説明していきます。

給与の差押えを中止する方法

個人再生を申し立てた後、給与の差押えを中止する方法には、次の二つがあります。

  1. ①裁判所に中止命令の発令を求める
  2. ②個人再生の開始決定を得る
①裁判所に中止命令の発令を求める方法
中止命令の申立て

第1に、給与の差押えという強制執行については、個人再生の開始前であっても、裁判所に中止命令を出してもらうことができます(民事再生法26条1項2号)。

個人再生の申立をしてから裁判所が開始決定を出すまでには時間がかかります。例えば、東京地裁の運用では、個人再生の申立があるとその全ての事件について個人再生委員が選任されます。個人再生委員は申立人と面接して、個人再生手続の開始を認めることが相当かどうかの意見書を裁判所に提出します。裁判所は、開始相当だとの意見書を受けて開始決定を出すことになるので、申立から開始まで1ヶ月前後かかるのが普通です。その間、さらに1ヶ月分の給与の支給時期が来ますので、差し押さえられたままだと生活への影響が大きくて大変です。そこで、開始前に給与の差押えを中止する手続が民事再生法により認められているのです。

裁判所が中止の必要ありと判断した場合に、強制執行の中止命令により給与の差押えを中止することができます。

執行停止の上申

個人再生を申し立てた裁判所が強制執行の中止命令を発した場合には、その中止命令正本を添付した強制執行中止の上申書を、差押え命令を出している裁判所(執行裁判所)に提出して執行停止の上申をします。

この手続が必要となるのは、執行裁判所と個人再生を扱う裁判所が別々だからです。例えば、給与の差押命令を発令した裁判所が横浜地裁で個人再生を扱う裁判所が東京地裁という場合は分かりやすいでしょうが、同じ東京地裁でも執行裁判所は民事第21部で、個人再生はその専門部が担当しますので、裁判所は別々の扱いとなります。

このように、執行裁判所は個人再生の担当裁判所が発令した中止命令を当然には知ることができないという事情があるため、執行裁判所には差押えの中止を知らせる必要があるのです。

執行停止命令

執行裁判所が執行停止命令を出します。これによって、第三債務者(勤務先の会社)が債権者(貸金業者)に給料を支払うことはなくなります。

注意)執行裁判所が執行停止の命令を出しても、債務者は差し押さえられた給与額を直ちに受け取れるわけではありません。後述の「差押中止と受取給与額」を参照してください。

②個人再生の開始決定を得ることにより中止する方法
当然中止

裁判所から個人再生の開始決定が出されると、再生債権に関するすべての強制執行は当然に中止します。強制執行中止命令申立のような特別の申立ては必要ありません。

したがって、個人再生申立と同時に強制執行中止命令申立をしたが、裁判所により必要なしと判断されて、申立てが却下されても、その後個人再生開始決定が出ることで法律上当然に中止の効力が生じます(民事再生法39条1項)。

強制執行中止の上申書

個人再生の開始決定が出ることで当然中止の効力が生じるとしても、すでに述べたとおり、個人再生を扱う裁判所と強制執行を取り扱う裁判所が別々なので、個人再生手続開始決定正本を添付した強制執行中止の上申書を、給与差押えをした裁判所(執行裁判所)に提出して中止の手続を進めます。

差押中止と受取給与額

会社内に留保

給与の内、差し押さえられた部分は、差押えが中止されることで債権者への支払がストップしますが、差押えが中止されただけでは、債務者(従業員)は、差押え分を受け取ることができません。差し押さえられた給与額は、そのまま会社に留保されます。尚、会社が差押え分を供託している場合は、供託所がそのまま留保します。

留保分の支払時期~再生計画認可決定の確定

民事再生法第184条は「再生計画認可の決定が確定したときは、第39条第1項の規定により中止した手続又は処分は、その効力を失う。」と定めていますので、再生計画を認可する決定が確定したら、差押え手続が失効します。

そこで、会社に留保されていた差押え分が債務者(従業員)に支払われます。

中止命令⇒勤務先に留保されるだけ⇒直ちには満額を受け取れない

強制執行(給与差押)取消しの方法

上述したように、中止命令も開始決定による当然中止の場合も給与の差押えを「停止する」効力しかありません。つまり、差し押さえられた給与額は会社が債権者への支払いを留保することになるだけで、当然には債務者本人には全額が支給されません。給与の支給を満額受けるためには、再生計画を認可する決定が確定するまで待たなければならず、申立てから半年以上先の話となってしまいます。

給与の差押えを取消す方法
差押えの取消し

再生計画の認可決定が確定するまで待たずに、給与全額をもらえる方法が給与差押えの取消しです。

給与の差押えを取消してもらうためには、個人再生手続の開始決定後、裁判所に「給与差押取消命令」を申立てる必要があります。給与の差し押さえが取消しになれば、再生計画の認可決定を待たなくてもその時点から給与の満額を受け取ることができ、留保されていた分も遡って受け取ることができます。

個人再生手続の開始決定後は、給与差押えなどの強制執行手続は、法律上当然に「中止」になることはすでに説明しましたが、それとは別に、債務者からの申立てにより、裁判所が再生計画のために必要と判断すれば、強制執行の手続取消しを命ずることができるとされています。

民事再生法第39条2項は「裁判所は、・・(中略)・・再生のため必要があると認めるときは、再生債務者等の申立てにより又は職権で、・・(中略)・・、中止した再生債権に基づく強制執行等の手続・・(中略)・・の取消しを命ずることができる」と規定しています。

取消しを裁判所に認めてもらうためには,法律上「再生のため必要がある」ことが要件になっていますので、申立てにあたって、この点を明らかにしなければなりません。

強制執行の取消しが認められれば、その取消決定正本を差押命令を発令した裁判所(執行裁判所)に提出して、差押えを解除します。

解除以降は、給料の全額を受け取れるようになるとともに、それまでに留保されていた部分も受け取ることができます。

実際の方法は、まず、個人再生申立とともに「給与差押中止命令」を得て、差押え給与額を会社に留保してもらい、再生手続開始決定後に「給与差押取消命令」を得て、留保分及び差押え取消し以降の給与満額を受け取るようにしましょう。

※尚、法律上は、民事再生申立ての段階で、差押取消しの申立ても可能ですが、まだ再生手続が成立するかどうかもわからない段階で、裁判所が差押の取消し決定をすることはほとんどありません。

したがって、民事再生の申立てを素早く的確に行って、早く開始決定を出してもらうことが肝心です。

いずれにせよ、中止手続も取消し手続も面倒なうえ、迅速性を要しますので、少しでも早くこれらの手続に熟知した弁護士に個人再生を依頼するとともに、給与の差し押さえをストップする手続を依頼しましょう。

自己破産申立ての場合

中止命令の発令を求める

個人再生手続と似た制度として、破産開始決定前には、給与の差し押さえを止める中止命令の発令を裁判所に求めることができます(破産法24条柱書本文一号)。

破産手続開始による給与差押えの失効

個人再生手続と異なり、破産手続においては、開始決定が出されますと、個別の強制執行手続の一種である給与の差押えは当然に失効します(破産法42条2項)。

給与の差押命令を発令した裁判所は別の裁判所における破産手続の開始を当然には知り得ませんので、東京地裁の運用では、破産管財人が執行取消しの上申書を執行裁判所に速やかに提出する扱いとなっています。

破産手続においては、破産開始決定後に支給される給与は「新得財産」となり、これは債権者に配当される財産の対象にはなりませんので、差押の対象にもなりません。従って、破産手続が開始された後にも給与の差押が継続している場合には、破産管財人は速やかに上記同様の手続をとって、給与の差押えを解除しなければなりません。