個人再生

個人再生とは

個人再生とは、個人民事再生とも呼ばれる、債務整理の一つで、民事再生を個人の方が行えるように簡単にしたものと理解することが出来ます。

いわゆる民事再生は、民事再生法に則り、法的に借金を長期間にわたって分割返済したり、借金の減額をしたりすることですが、企業等法人を想定している用語として扱われるため、個人の借金問題では個人再生と呼ばれるのが一般的です。

個人再生のメリット・デメリットまとめ

メリット

  • 借金額が大幅に減額される
  • 支払い督促をストップ
  • 給与の差押えをストップ
  • 住宅などの財産を維持できる
  • 借金の理由が問われない
  • 破産のような職業・資格制限は無い
  • 生命保険を解約する必要がない
デメリット

  • 一定の収入が必要
  • ブラックリストに載る
  • ローン付きの自動車を手放す
  • 官報公告に載る
  • 予納金の負担あり
  • 個人再生委員の報酬金負担
  • 連帯保証人に請求が行く

個人再生の流れ

個人再生の流れについてはこちら

個人再生の種類

個人再生には、下記の2種類の手続があります。

  1. 小規模個人再生
  2. 給与所得者等再生

1.小規模個人再生とは

小規模個人再生とは、もともと個人事業主を対象としていた民事再生に則った債務整理手続で、現在では広くサラリーマンやアルバイト・パートの方でも一定の収入を継続的に見込める方を対象とし、借金(住宅ローン等を除く)の総額が5,000万円を超えない場合に、借金額を大幅に減額し、数年(3年程度)で分割返済していく債務整理方法です。

小規模個人再生では、最大で借金を10分の1程度まで圧縮することが可能です。例えば、住宅ローン以外に借金の総額が4000万円になったとしても、1割の400万円を支払へば残りの3600万円の弁済免除が可能です。これが、例えば、400万円の債務総額だとしますと、最低弁済額は100万円となりますので、75%の債務額(300万円)がカットされることになります。

小規模個人再生は、一般的には後述する給与所得者等再生よりも採用されることの多い個人再生です。給与所得者等再生においては、支払額(計画弁済総額)が「可処分所得」(収入の合計額から税金や最低生活費などを差し引いた金額)の2年分を上回る額であることが必要となるのですが、最低生活費の基準が生活保護世帯の生活必要費を基礎にしているため、高額所得者や単身者の場合には、「可処分所得」の額が相当高額になりやすいと言われています。

小規模個人再生では、過半数の再生債権者(頭数若しくは債権額)が計画弁済案に「積極的」に反対した場合には認められないことになります。しかし、通常は、個人再生手続が廃止になると、通常の場合には、残る債務整理の手段は破産しかなくなるので、最低でも10%以上の配当が見込まれる個人再生をつぶして、破産手続を選択するような債権者はまずいないでしょう。

小規模個人再生においては、「清算価値」と「最低弁済基準額」を比べていずれか高い方を「計画弁済総額」として返済していく必要があります。例えば、住宅ローン以外に借金が総額2000万円あるとしますと、最低弁済基準額は300万円となります。

他方、ローンの支払いが終了した自動車が1台あり、その処分価値が100万円、生命保険契約を解約すると200万円の解約返戻金、さらに、退職金(退職する必要はありませんが、仮に退職したとすると支給される見込み額)の8分の1相当額が150万円あるとしますと、その合計額は450万円となります。この場合には、清算価値は450万円と算定されます。

上記450万円清算価値と300万円の最低弁済基準額を比べると、清算価値450万円の方が高くなるので、こちらが弁済総額となります。

※清算価値とは

清算価値とは、破産手続が行われた場合を想定して、破産債権者に配当される総額を言います。一般的に、「清算価値保障の原則」と呼ばれる原則があり、小規模個人再生においては、計画弁済総額が清算価値を下回らないことが必要とされています。つまり、自己破産した場合に配当される見込み額以上の額は個人再生手続において必ず支払うように、という意味合いです。

ただし、どのような財産を清算価値に含めるのかについては、地方の裁判所によって取り扱いが大きく異なることがあるため、注意・確認が必要です。

例えば、東京地裁では下記のような財産については、清算価値として計上する必要がないという取り扱いです。

(例)

  • 99万円以下の現金
  • 20万円以下の残高の預貯金
  • 20万円以下しか見込めない生命保険の解約返戻金
  • 処分見込み額が20万円以下の価値の自動車
  • 賃借アパート・マンションなどの敷金
  • 日常生活に必要な家財道具
  • 差し押さえが禁止されている動産や債権
  • 支給見込額の1/8に相当する額が20万円以下となる退職金

など

※最低弁済基準額とは

最低弁済基準額とは、借金の総額に応じて決められる、最低限返済しなければならないとされる金額です。

借金の総額 最低弁済基準額
  100万円未満   借金の全部
  100万円以上500万円以下   100万円
  500万円を超えて1500万円以下   借金の5分の1
 1500万円を超えて3000万円以下   300万円
 3000万円を超えて5000万円以下  借金の10分の1

 

2.給与所得者等再生とは

給与所得者等再生とは、会社員等の給与又は一定の定期的収入の見込まれる債務者を対象とした個人再生で、債権者の同意を得ることが必要とされない代わりに、支払額(計画弁済総額)が「可処分所得」([収入-税金-社会保険料-最低生活費]の2年分の金額)を上回る額であることが必要となります。

給与所得者等再生においては、この「可処分所得」額の2年分、最低弁済基準額清算価値の3つの基準を比べて、一番大きい額を基準にして、計画弁済額を決定しなければなりません。この可処分所得額は、高額所得者などの場合には、最低弁済基準額や清算価値より高くなることがあります。

※可処分所得とは

可処分所得は、単純計算をすると、下記のようになります。

[可処分所得]=
[1年間の収入]-[所得税や住民税などの税金+社会保険料]-[必要最低限の生活費]

以上で算出された金額の「2年分」が基準となります。

住宅ローン特則(住宅資金貸付債権に関する特則)

住宅ローン特則と呼ばれる住宅資金貸付債権に関する特則とは、一定の要件を満たせば、住宅ローンは減額無しに返済を継続しながら、そのほかの借金を個人再生(小規模個人再生給与所得者等再生)によって借金を減額することで、住宅を失わずに済むというものです。 カードローンや消費者金融からの借入など住宅ローン以外の債務負担を個人再生で大きく圧縮して住宅ローンの支払いを楽にして、住んでいる家を手放さずに借金整理が出来るという点で、個人再生手続の大きなメリットの一つとなっています。

住宅ローン特則の条件

住宅ローン特則を利用し、住宅を維持しながら個人再生をするための条件は、下記のようなものがあります。

  1. 「住宅」は居住用の建物であること
  2. 債務者自身が居住用として利用している「住宅」であること(投資用マンション等はNG)
  3. 抵当権が「住宅」に設定されていること
  4. 「住宅資金貸付債権」(住宅ローン)は「住宅」の建設か購入に必要な資金であること(住宅のための土地、借地権の取得に必要な資金含む)
  5. 「住宅資金貸付債権」(住宅ローン)は分割払いの定めがある債権で、抵当権が当該再生債権自体または当該再生債権を保証会社が代位弁済した場合の求償権を担保していること

など

個人再生と住宅ローン特則の詳細についてはこちら

個人再生のメリット

1.借金額が大幅に減額されます。

最低限返済しなければならない金額があります(個人再生の種類参照)が、借金の大幅圧縮が見込め、かつ無利息で分割返済をしていくことになります。原則3年間(場合によって~5年)での返済となります。この点は元金の減免が期待できない任意整理に比べると、非常に大きなメリットとなります。

2.支払い督促がストップする

精神的に多大なストレスとなる「支払い督促」が一時ストップします。これは、弁護士に相談して、「受任通知」を債権者に送ることで、債権者は直接債務者に支払いを求めることが法的に出来なくなるためです。弁護士が受任通知を送付すると、弁護士が「代理人」となり、その後の手続を進めることになります。

なお、再生計画の認可決定が確定すれば、整理された借金の支払いが再開します。

3.住宅などの財産を維持できる

自分の名義で組んでいる住宅ローンの支払いが苦しくなってしまった方も、住宅ローン以外のクレジットなど貸金業者への支払いを個人再生によって圧縮し、住宅を維持することがしやすくなります。また、ローンを支払い済みの自動車がある場合には、そのまま保有することができます。なお、支払い途中の自動車ローンがある場合には、債権者は所有権留保された自動車を再生手続によることなく引き上げることが通常できますので、自動車を失うリスクが大きくなります。

4.借金をした理由が問われない

例えば、免責不許可事由に該当する「浪費(ギャンブルなど)」によってできた借金であっても、個人再生による減免は可能です。

しかし、扶養料支払債務など、一定の債務については、減免が認められない場合がありますので、注意が必要です。

5.直接仕事に影響しない(資格制限が無い)

自己破産の場合、免責が確定する(免責決定)までの一定の期間、一部の職業の方はその職に就けなくなることがあります(不動産鑑定業、保険外交員など)が、個人再生の場合には、そういった「資格制限」はありません。仕事を続けながら個人再生をすることが出来ます。

6.生命保険を解約する必要がない

生命保険は個人再生では、解約返戻金の額が20万円以上となる場合には清算価値に加えられることになりますが、この場合でも解約する必要はありません。

7.任意整理では解決困難な場合

任意整理においては、東京三会基準に従わないなど、非協力的な債権者がいると和解ができない場合があります。さらに、積極的に訴訟提起したり、公正証書に基づいて給料の差押などをしてくる場合もあります。このような場合には、個人再生手続を迅速に申し立てることで、差押などの強制執行を止めることができます。

個人再生のデメリット

1.ブラックリストに載る

いわゆる「ブラックリスト」と呼ばれる、個人信用情報機関に事故情報として登録されるため、一定期間(5~8年程度)は新規に借金をしたり、新規にクレジットカードを作ったりすることが出来なくなります。

もっとも、任意整理でも、自己破産でも、弁護士等が債権者に受任通知を出して、支払いを停止すると、「ブラックリスト」に登録されるので、これは個人再生だけのデメリットとはいえません。

2.ローン付きの自動車は原則的に手放す必要がある

ローンが無い自動車であれば、手放す必要はありません(ただし、その自動車の時価は、清算価値計算の対象となります。清算価値保障の原則)。

一方、ローン付きの自動車の場合、原則的にはローン会社に自動車を引き揚げられてしまいます。自動車の所有権は通常ローン会社が留保している(「所有権留保」)ためです。どうしても自動車が必要な場合は、別途親族に自動車を買い取ってもらうなどし、その方から借りるといった方法が取られる事があります。

3.官報公告

個人再生は、自己破産と同様に裁判所が関与して全ての債権者を公平に扱い、手続が適正に行われる必要性が高いので、個人再生の事実を官報にのせることによって国が一般に告知します。

しかし、一部の専門業者と除くと、官報に普段から目を通している人はまずいないでしょう。そうしますと、官報公告により、勤務先、友人などに個人再生していることが知られてしまうリスクは一般的にはそれほど大きくはないと言えます。

4.予納金の負担

東京地裁の場合には、個人再生の申立があるとすべての案件について個人再生委員を選任する取り扱いとなっています。その費用は弁護士が代理人についていると15万円ですが、そうでない場合は25万円が相場となります。

東京地裁以外では、裁判所により取り扱いが異なりますので、事前に問いあわせて確認する必要があります。弁護士が申立代理人となっている場合はそもそも個人再生委員を付けないが、そうでない場合には個人再生委員を選任して25万円ほどが必要となる場合が多いようです。

これらの個人再生委員の費用が全く必要とならない任意整理に比べるとそのぶんだけ負担が重いと言える側面があるかもしれません。

しかし、個人再生においては、任意整理にはない大幅な債務額の圧縮が期待できますので、予納金の負担自体はそれほどのデメリットだと評価する必要はないでしょう。

★個人再生の弁護士費用についてはこちら★