今住んでいるアパートの家賃を滞納してしまっている場合に、個人再生手続きで債務整理をすると
「家貸踏み倒しで追い出されるのでは」
と不安に思うことでしょう。
この記事では、次のAさんのケースをモデルとして、家賃を滞納している場合に、上手に個人再生をする方法を考えていきましょう。
1.個人再生すると滞納家賃はどうなるの
Aさんのケース
Aさんは、家賃以外の債務380万円を抱えて、さらにアパートの家賃(月額5万円)を4か月(合計20万円)滞納しているとします。
(この記事では、債務総額500万円以下で清算価値が100万円以下の典型例を想定します。)
この状態で(何の対策もせずに)個人再生手続きをとると、家賃を含めたAさんの債務(合計400万円)は次のようになります。
債務総額400万円は100万円に減額されます。
つまり総額100万円を支払えば、残りの300万円は免除されるのです。
そして、100万円は、各債権者の債権額が総額に占める割合に応じて、各債権者に分配されることになります。
すると家主への支払い額は、
5万円
に減額され、残り
15万円は免除!
されます。(20万円÷400万円×100万円=5万円)
結果的には、家賃15万円分踏み倒しということです。これでは、家主としても黙っていられないでしょう。
家賃不払い→契約解除→立ち退き、となっては困ります。
だからと言って、家主だけに滞納分を払ってしまうのも「何か、法律的にまずいのではないか」と心配になりますね。
そこで、その対処方法をずばり解説します。
2.滞納家賃の対処方法
元の賃貸借契約に保証会社がついているか否かで少し状況が異なります。
2-1.保証会社が付いていない場合
家主の立場からすると、15万円踏み倒しということなら、賃貸借契約を解除するから立ち退いてもらいたいと考えているかもしれません。
賃貸借契約を解除されないためには、滞納状態を解消しなければなりませんが、個人再生をしようとする人にとっては、簡単なことではありません。
一番のお薦め方法は、次の①です。
①身内などの第三者に肩代わりしてもらう
親や兄弟などの身内に頼んで、滞納分を代わりに支払ってもらう方法です。
そもそも保証会社が付いていない賃貸借契約では、親兄弟などの身内が「連帯保証人」になっているケースが多いでしょう。このような場合、いずれ連帯保証人は滞納家賃を払わなければならないことになるので、事情を説明すれば、代わりに支払ってもらえるはずです。早速、契約書を確認しましょう。
忘れてはいけないのは、立替払いした後の個人再生手続き上の処理です。肩代わり分(Aさんのケースでは20万円)は、どうなるのでしょうか。
肩代わりした人が債権者になりますので、債権者一覧表には、肩代わりした人を(例えば親)債権者として記載しなければなりません。
などと考える必要はありません。肩代わりした人が親などの身内でも、債権者一覧表には債権者として載せましょう。
というのは、再生債権者には再生計画で決まった配当金額を払うことになりますが、債権者表に載せようが載せまいが、配当総額は100万円(典型例の場合)で変わりありません。であるなら、肩代わりしてくれた人を債権者一覧表に載せておけば、その100万円の中から、Aさんのケースでは、少なくとも5万円がその人に配当されますので、身内だからと言って、配当から排除する理由はないでしょう。
②個人再生の申立て前に自分で滞納家賃を支払う
ご自分で滞納家賃を支払う余力を確保できるならば、あらかじめ支払ってから個人再生を申し立てすることも可能です。
注意すべきは、個人再生を申し立てて開始決定が出ると、以後は再生計画が認可するまでは、滞納家賃の弁済はできなくなります。
なお、開始決定が出た後も、新たに発生する月々の家賃は、支払い続ける必要がありますので、混同しないでください。
第85条(再生債権の弁済の禁止)
再生債権については、再生手続開始後は、この法律に特別の定めがある場合を除き、再生計画の定めるところによらなければ、弁済をし、弁済を受け、その他これを消滅させる行為(免除を除く。)をすることができない。
これを無視して滞納家賃を支払うと、「偏頗弁済」と言って、特定の債権者だけを有利に扱ったことになり、「債権者平等の原則」に反します。
ですから自分で滞納家賃を解消する場合は、必ず、
個人再生を申し立てる前に
支払うようにしましょう。
自分で支払った後の個人再生手続き上の処理は、どうなるでしょうか。この場合は、
- 滞納状態が解消されたわけですから、債権者であった家主が債権者でなくなります(債権者一覧表には記載されない)。
- 一方、家主に支払った20万円が清算価値に上乗せされますので、清算価値が20万円増えます。その結果、最大120万円まで支払額が増えることがあります。
この点は難しいので、弁護士の指示に従ってください。
→清算価値についての詳しい説明はこちら
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2-2.保証会社が付いている場合
これまで検討した保証会社がついていないタイプでは、家賃は借主から家主へ直接振り込まれますので、借主が家賃を滞納すると、家主は家賃の滞納にすぐ気が付いて、賃貸借契約を直ちに解除しようとするかもしれません。
一方、保証会社付きのタイプでは、通常、家賃は毎月保証会社から家主へ振り込まれます。したがって借主が家賃を滞納しても、家主は保証会社から連絡が来るまでは、滞納した事実を知らないので、家主が家賃滞納を理由に賃貸借契約を解除することは、「直ちには」起こらないでしょう。
ある意味、滞納状態のまま個人再生手続きを進めても、家主は(保証会社の補填により)家賃を満額取得し、保証会社は、補填分20万円のうち5万円だけ個人再生手続きで配当を受け、残り15万円は回収不能となるだけです。先に述べた、身内が肩代わりしたケースにおける身内と同じ立場になります。
但し、裁判例では「保証会社による代位弁済が行われたとしても、賃貸借契約の解除原因事実の発生を妨げるものではない」(大阪高裁平成25年11月22日判決)とされていますので、滞納状態を放置しておくと、やがては賃貸借契約が解除されてしまう可能性は十分ありますので、この中途半端な状態は避けるべきです。実際、保証会社は家賃の立替払いが数か月続くと、家主に対して、「賃貸借契約を解除して欲しい」と頼んできます。
こと住居に関しては安全策を最優先すべきですので、(保証会社が付いていない場合)のところで解説したのと同様に、まずは滞納家賃を、
- 身内に、肩代わりしてもらう方法で、それが出来なければ、
- 自分で払う方法で
支払い、滞納状態を解消したうえで、個人再生手続きを進めていくべきです。
3.個人再生を行う場合は弁護士にご相談ください
家賃については、処理の仕方などによって個人再生手続きでの取り扱いが異なります。正確な対応のためには、弁護士へのご相談がお勧めです。
弁護士にご相談いただければ、他の債務整理手続きを含めて、依頼者に合った債務負担の軽減方法をアドバイスいたします。
また、実際に個人再生を行うことになった場合は、円滑に債務の減額を受けられるように、債務者のご状況を踏まえて適切に対応いたします。
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