奨学金の返済を延滞したまま放置すると、催促の連絡だけでなく、延滞金の発生、連帯保証人への影響、財産の差し押さえなど様々な不利益が生じます。
日本学生支援機構による奨学金制度は貸与されるもので、借金であることに変わりはなく、卒業後に分割して返済することが必要です。
奨学金の返済は、卒業後すぐに始まります。しかし、特に社会人になりたての頃は給与が低いのが一般的ですから、その中から返済に回すお金を捻出できないという状況になりやすいのです。
では、奨学金の返済を滞納するとどうなるでしょうか。また、解決策はあるのでしょうか。
1.奨学金を滞納するとどうなる?
まず、奨学金を滞納することによる影響を見ていきます。
1-1.延滞金の付加発生
奨学金の返済を2回以上滞納してしまうと、延滞金が科されます。
延滞金は、利息付の場合には、少なくとも年利3.0%発生します。
延滞した期間が長くなればなるほど延滞金が嵩み高額になります。
なお、第一種(無利息)で奨学金を借りている方であっても延滞金は発生しますので、注意が必要です。
【参考】日本学生支援機構公式サイト「延滞金」
1-2.催促の連絡(督促)
日本学生支援機構の場合には、奨学金の返済を1ヶ月分滞納しただけであれば、翌月に2か月分の合計金額が口座から引き落とされるだけで済みます。
しかし、2か月分以上滞納してしまうと、本人に対して督促の手紙や電話での連絡があります。
これを無視してしまうと、連帯保証人(父母など)に連絡が行くでしょう。
連帯保証人へ滞納の事実を知られたくない場合は、滞納が続く前にきちんと対応することが大事です。
現在では、日本国際教育機関が保証をしてくれる制度(いわゆる機関保証)を利用できるようになりました。
機関保証を受けている場合には、奨学金の返済を滞納すると、同機関が代位弁済(代わりに一括弁済すること)を行います。その後、同機関が債務者本人に支払いの請求や督促を行なってくるでしょう。
なお、奨学金の返済についての連絡や督促は、日本学生支援機構から業務委託されている「債権回収会社」から行なわれる場合もあります。
債権回収会社は、いわゆるサービサーのことです。有名なところでは「日立キャピタル債権回収」「エム・ユー・フロンティア債権回収」などがあります。
多くの場合、滞納4ヶ月目には督促・回収業務が債権回収会社に委託されるようです。
これらの債権回収会社から督促があると「見覚えがない名前だ」などと放置してしまう方が見受けられますが、債権回収会社は日本学生支援機構の代理で督促をしているので、放置することのリスクは変わりません。
1-3.信用情報機関への登録
奨学金の延滞等の情報は、信用情報機関へ登録されます。
(現在、日本学生支援機構では、3ヶ月以上の滞納が続くと信用情報機関に延滞情報の登録を行うようです。)
信用情報機関に延滞の情報(金融事故情報)が登録されてしまうと、様々なローンが組めなくなる可能性が生じます。
車や自宅の購入の際のローンが通らなくなる他、クレジットカードの審査が通らなくなったり、クレジットカードの更新ができずに強制解約されたりするおそれがあります。
1-4.支払督促・訴訟(裁判)・差し押さえ
滞納が8~9ヶ月程度続くと、分割返済ができなくなり、返済期日が来ていない分も含めて全額を一括で返済することを求められるようになります。
これを「期限の利益の喪失」といいます。
そして、その後は裁判手続きに移行する可能性が出てきます。
一番多いのは、「支払督促」という手続きです。
日本学生支援機構が支払督促の申立てを行なうと、簡易裁判所から支払督促状が送られてきます。
これに対応しないまま14日以上が経過すると、仮執行宣言が付いた支払督促(仮執行宣言付支払督促)が発令されます。
仮執行宣言付支払督促に基づき、日本学生支援機構は財産(銀行口座や給与)の差し押さえを行なうことが可能になります。
例えば、給与の差し押さえが行なわれると受け取れる手取り金額が少なくなるだけでなく、勤務先に滞納の事実が発覚してしまいます。
なお、支払督促ではなく訴訟を提起されることもありますが、これは時間がかかるため債権者側もあまり好んで行いません。
2.返済が難しい時に利用できる制度
上記のような事態を避けるために、奨学金を滞納してしまいそうな場合、あるいは実際に滞納している場合は、まず以下のような制度の利用を検討しましょう。
2-1.返済猶予制度
日本学生支援機構では、災害や傷病、失業、経済的困難等の理由によって返済が困難な場合は、「一定期間返済を停止し、先送りできる」という制度があります。
これを返還期限猶予制度といいます。
元金や利息が免除されることはありませんが、一定期間奨学金の返済を猶予してもらうことで、生活に支障が出ないようにする制度です。
利用には、審査を受けて承認されることが必要です。
延滞を起こす前に(延滞してしまった場合は速やかに)、申請をすることが大切です。
【参考】日本学生支援機構公式サイト「返済猶予制度」
2-2.減額返還制度
「約定どおりの返済は困難だが、月々半額程度であれば返済できる」というような場合は、日本学生支援機構の減額返還制度が利用できることがあります。
これは一定期間、当初の返済額から減額してもらえる制度です。
ただし、返済総額が減額されるわけではないので、返済期間が延びてしまうことに注意が必要です。
減額返還制度も審査が必要ですが、審査の時点で滞納が生じていると適用されませんので、滞納が生じてしまう前に、早めに申請することが大切です。
なお、1回の願出につき、適用期間は12か月です。
【参考】日本学生支援機構公式サイト「減額返還」
3.奨学金の返済自体が困難な場合|債務整理
上記のように、日本学生支援機構にも猶予や減額の制度がありますが、いずれも審査が通らずに利用できない、利用できたとしても完済の目処が立たないこともあります。
奨学金を返済するために他の銀行や消費者金融、カードローン等から借り入れてしまう方もいらっしゃいますが、ここまで来ると奨学金だけの問題ではなくなります。
借金債務全体について、弁護士に相談した上で債務整理を行なうことが、生活の建て直しには必要不可欠となるでしょう。
また、延滞が続くと、前記のとおり一括返済を求められてしまい、最終的には預金口座や給料などの財産差し押さえに到る場合もあります。
そのような事態を避けるためには、弁護士に債務整理を依頼することで、今後の返済について対処してもらうことがお勧めです。
最後に、3つの債務整理の方法について解説していきます。
3−1.任意整理
任意整理は、債権者との個別の交渉により将来利息をカットした上で、約3年程度の長期分割払いにリスケジュールを行い、毎月の弁済額を減額することにより債務を整理する方法です。
しかし、日本学生支援機構は、利息も延滞金も一切免除には応じないことが機構としての対応方針であり、任意整理はできないと考えるべきでしょう。
とは言え、奨学金以外の借金がある場合は、その借金のみについて交渉して任意整理を行い、奨学金はそのまま支払いを継続するというのも一つの方法です。
これにより、例えば奨学金の連帯保証人に請求がいくことを避けることができます。
3−2.個人再生
個人再生を行うと、奨学金を含めた全ての債務が1/5~1/10に圧縮される可能性があります。
圧縮された債務を3年間(上限5年間)継続して分割払いし、認可決定が確定すると免除の効果が発生します。その余の支払い義務については奨学金も含めて免除されます。
個人再生は、手続き後も長期にわたる分割払いが必要なので、安定した収入が継続的に見込まれる人ではないと利用できません。
一方、手持ちの財産を手放す必要がなく、住宅ローン支払い中のマイホームも手元に残しておける可能性が高いことから、ある程度の資産をお持ちの方にはメリットが大きい手続きです。
なお、連帯保証人については、奨学金の残額を弁済する義務を免れることはできません。
任意整理とは違い、依然として連帯保証人の支払い負担は大きいままであると言えるでしょう。
3−3.自己破産
自己破産手続きを行い、裁判所から「免責」が認められれば、奨学金を含めたほとんど全ての債務の支払いを免除されます。
税金や国民健康保険料などの滞納は免除されませんが、借金の全額の支払い義務がなくなることから、手続き後は新たな気持ちで生活を再スタートすることができます。
一方で、99万円以上の現金や総額20万円以上の預貯金、査定額20万円以上の車などは裁判所により処分・換価され、債権者に配当さえてしまうことに注意が必要です。
また、自己破産をした場合でも、連帯保証人の支払い義務は残ります。
4.奨学金の債務整理をお考えの方はお問い合わせください
日本学生支援機構の制度だけでなく、自己破産を含めた債務整理を行うことで、奨学金の滞納問題は解決をすることが可能です。
債務整理の経験豊富な弁護士が対応いたしますので、ご安心ください。
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