自己破産
自己破産とは
自己破産は、支払いできないほど多額の借金を抱えた人について、持てる財産は処分されますが、財産処分しても、また、処分する財産がそもそもない場合も含めて、残った借金を免除して、経済的な生活のやり直しを支援してくれる国の制度です。
多額の借金がある場合の救済手段には、自己破産の他に任意整理、個人再生、特定調停などの債務整理の方法があります。
ところが、自己破産以外の手続では借金を全額免除されることはないのです。あくまでも借金を整理して、利息や元金の一部を免除・減額してもらって返済していくための手続きです。
これに対して、自己破産は、破産の申立てをして裁判所から免責許可を受ければ、債務の支払いは、非免責債権以外は、全額免除されます。つまり、基本的には借金すべてをチャラにすることができるのです。
破産手続が開始された後に手にした財産・収入は「新得財産(しんとくざいさん)」と呼ばれて、債権者への支払・配当のために取り上げられる心配はありません。
「支払不能」だと認められる状況になったら、むしろできるだけ早く弁護士などの専門家に相談して、自己破産を申し立てることをおすすめします。
自己破産のメリット・デメリットまとめ
- メリット
- 借金が免除される
- 支払い督促をストップ
- 給与差押えをストップ
- デメリット
- ブラックリストに載る
- 連帯保証人に請求が行く
- 官報公告に載る
- 7年以内は再度の免責が不許可
- 滞納税金は免除されない
- 不動産などの財産が処分される
- 免責確定まで職業・資格の制限あり
- 予納金の負担あり
- 郵便物が破産管財人へ転送される
- 旅行などの制限あり
自己破産の流れ
自己破産のメリット
1.借金が免除される
自己破産最大のメリットは、裁判所の免責許可決定が確定すれば、借金の支払を免除されることにあります。「免除」とは債務の支払いを裁判上強制されることはない、ことを意味します。
ただし、裁判所から免責許可がおりるのには条件があります。例えば、借金を作った原因がギャンブルや浪費であった場合には、免責不許可事由に該当し、免責が認められないことがあります。
しかし、たとえ免責不許可事由に該当するような事情があったとしても、実際には多くの場合において、裁判所の裁量的な判断で免責となる「裁量免責」を得ることができます。
⇒「免責不許可事由と裁量免責」
⇒「非免責債権」
2.支払い督促をストップ
破産申立を弁護士等が受任した場合には、債権者に受任通知を出すことにより、破産申立前でも、取り立てをストップさせることができます。
自己破産をする場合に法律の専門家である弁護士等に依頼すると、債権者に対する受任通知書が郵便やFAXで送付されます。債権者がその受任通知書を受領した時点から直接債務者に対して電話や手紙による連絡、督促、また、取立てのための接触などをすることはできなくなり、代理人を通じての交渉しかできなくなります。これは貸金業法にそのような条項があるからです。
貸金業法第21条1項9号には、貸金業者は、弁護士等から受任通知を受領した場合には、債務者等(保証人が含まれます)に対して、
「電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は訪問する方法により、当該債務を弁済することを要求し、これに対し債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず、更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること」
が禁止されています。
銀行や大手の金融機関であればそれほど厳しい取立てをしませんが、それ以外の金融業者は厳しい取立てを行ってくることがあります。毎日のように取立てを受けると精神的に追い込まれますが、取立てが一切なくなるだけで精神的苦痛からだいぶ開放されます。平穏な生活を取り戻して、精神的に安定した生活を送れるようになります。これは自己破産を専門家に依頼してすぐに感じることのできる大きなメリットのひとつです。
なかには、弁護士からの受任通知が届いているにもかかわらず、債務者本人に電話をかけたりするとんでもない業者がいますが、当事務所ではそのような業者には直ちに電話やFAXをして、債務者本人に接触しないよう厳重に申し入れをします。弁護士から受任通知が来たうえ、電話までもらったのにさらに債務者本人に電話をかけるような金融業者はまずいません。
3.給与差押えをストップ(取消・解除)
自己破産の申し立てをすることで、給与の差し押さえを取り消したり、解除してもらったりすることが出来ます。これにより、給与が差し押さえられて会社が給与の支払いを凍結したり支給額から差押分を控除したりしていた場合でも、そのような差押をストップすることができます。
この点についてはこちらで詳しく説明しておりますので、ご参照ください。
⇒「給与差し押さえと解除方法」
⇒「給与差押え!個人再生・自己破産で解除」
自己破産のデメリット
1.ブラックリストに載る
破産については、いわゆる「ブラックリスト」に登録されます。これは「ブラックリスト」というリストに登録されるのではなく、個人信用情報機関に破産が事故情報として登録されることです。
信用情報機関により事故情報の登録期間は異なります。
全国銀行個人信用情報センター(KSC)の場合には、官報情報として「破産手続開始決定を受けた日」から10年を超えない期間とされています。
また、(株)日本信用情報機構(JICC)の場合には「破産の発生日」から5年を超えない期間とされています。この「破産の発生日」という文言はあいまいなので、具体的に「破産手続開始決定を受けた日」と同じかどうか確認しておきたいところです。
事故情報として登録されている間は、新規に借金をしたり、クレジットカードを作ったりすることが出来なくなります。また、新規にアパートを借りる場合などに審査で通らないこともあります。
もっとも、任意整理でも、個人再生でも、弁護士等が債権者に受任通知を出すと、支払い停止を通知したことになりますから、「ブラックリスト」に登録されるので、これは破産だけのデメリットとはいえません。
2.連帯保証人に請求が行く
自己破産の申立を決意して支払いを停止すると、債権者は借金をした債務者の連帯保証人から借金分を取り戻そうとして取り立てをかけます。ですから、自己破産の申立を決意したら、できるだけ早く連帯保証人には十分な説明をしておくことが必要となります。
なお、債権者は連帯保証人に対しては通常一括返済を求めます。そして、債権者が連帯保証人による分割返済(任意整理)を認めない場合は、連帯保証人自身も自己破産を含む債務整理が必要となるケースがあります。いずれにしても弁護士に相談する必要があります。
3.官報の公告に載る
国の広報誌の「官報」に、自己破産者の氏名、住所、手続日時、裁判所などの個人情報が掲載されます。
官報とは、国の印刷局が作成している国の公告紙のことで、破産や個人再生についても公告されますが、法令の公布などを国民に知らせることが重要な役目となります。
官報はその目的からして確かに一般の方は見ることができますが、まず存在を知らない方が大半でしょう。
また、インターネットでも直近の30日間分の官報アーカイブを閲覧することはできますが、人目につくものではないうえ、検索エンジンで検索しても出てこないように処理されているようですから、問題にはなりません。
ですから、近所の方や会社の方、家族が、官報に載っているからといって破産の事実を知るということはまずないと言ってもよいでしょう。
4.自己破産の免責から7年以内は再度の免責を許可されない
自己破産を申し立てて免責決定の確定を得てから7年が経過する前は再度自己破産を申請しても免責されない可能性が大きいので注意が必要です。
⇒「免責不許可事由と裁量免責」
5.滞納税金は免除されない
税金等の公租公課は、一般債権と異なり、免責不許可事由を問題とするまでもなく、そもそも免責の対象とならない非免責債権として扱われます。
破産法253条1項1号は、「租税等の請求権」について免責許可の決定が確定したときでも責任を免れないと定めています。
税金等の公租公課は、国や地方公共団体などの運営に必要な資金の元となりますから、他の貸付債権等の一般債権とは異なり、回収については様々な法的優遇措置が政策的に定められているのです。
⇒「税金滞納を甘く見ると大変危険!滞納するとどうなるのかを徹底解説」
6.不動産などの財産が処分される
不動産について
破産管財人が財産を処分して現金に換算し、配当として債権者に配分することが破産手続の主たる目的ですから、不動産を持っていた場合は換価処分の対象となり、これを失うことになります。自宅をはじめ、賃貸アパート、別荘、土地などの所有不動産は全て失います。
ただし、住宅ローンを担保するための抵当権が設定された不動産は、破産手続とは別に競売にかけられ、債権者は優先的に競売代金から住宅ローンの回収をはかります。
もっとも、不動産の価値に比べて1.5倍以上のローンが残っている抵当権付きの場合には、そもそも資産性がないものとして、当初から破産手続における換価・処分の対象から除外されることがあります。この場合には、免責不許可事由が認められず、給与の差し押さえもなされていないような事案においては、管財事件ではなく、同時廃止で処理されることになるでしょう。
自動車について
自動車ローンが残っていない場合で、かつ自動車の時価が20万円以下の場合は、引き続き自由財産の一部として所有することが出来ますが、時価が20万円を超える資産価値がある場合には管財人により売却処分されます。
自動車ローンが残っている場合は、自動車の所有権は通常ローン会社又は販売会社が留保している(所有権留保)ため、通常はローン会社などに自動車を引き揚げられます。
その他の財産について
裁判所によって運用が違うことがありますが、東京地裁の場合には、20万円以上の生命保険解約返戻金、預貯金などは解約されて債権者の配当原資となります。
7.免責確定まで職業・資格制限がある
自己破産の場合、破産宣告を受けると免責決定が確定するまでの一定の期間、一部の職業の方はその職に就けなくなることがあります(弁護士や税理士などの士業、不動産鑑定業、宅地建物取引主任者、生命保険募集人、旅行業務取扱主任者、警備員等など)。
ただし、破産手続が終了し、免責決定が確定したときには、何らの申立をすることなく、当然に「復権」できます。これにより資格制限は消滅するので、再度活動することが可能となります。
⇒「自己破産による資格制限とは?資格制限のある職種と制限期間について」
8.予納金の負担あり
破産事件においては、任意整理と異なり、申立に際し、官報公告用の予納金(東京地裁の場合:同時廃止11,644円 (少額)管財事件18,543円)を納め、さらに、(少額)管財事件の場合には、破産管財人への引き継ぎ予納金として20万円が必要となります。
この予納金20万円は、一括払いが原則ですが、東京地裁の場合には4回までの分割払いを認める運用がなされています。
東京地裁以外では、裁判所により取り扱いが異なり、分納は一切認めない裁判所もあります。
このように、分納が認められるかどうか、認めるとして何回までの分納が可能かなどは、事前に申立予定の裁判所に電話などで問い合わせて確認しておく必要があります。
このように、自己破産には、任意整理に比べると予納金の分だけ負担が重いと言える側面があるかもしれません。
しかし、自己破産においては、任意整理にはない債務の全額免除が期待できますので、予納金の負担自体はそれほどのデメリットではないと評価してもよいでしょう。
9.郵便物が破産管財人へ転送される
自己破産には、同時廃止と管財事件があります。郵便物が転送されるのは破産管財人が選任される管財事件の場合に限られます。
同時廃止の場合には郵便物の転送はなされません。
郵便物の転送は、裁判所が破産者への郵便配達を行う郵便局に破産管財人への転送を指示(嘱託)することで開始されます。
通常は第1回債権者集会まで転送される扱いとなりますが、債権者集会が財産換価の関係などで第1回目では終了しない場合には、その後も転送が続けられることがあります。
破産事件における郵便物の転送は通信の秘密に対する重大な制約となりますが、破産法第81条・82条の明文規定により認められています。
管財事件では、破産管財人によって破産者の財産について調査・換価処分がなされるので、郵便物の転送は「隠し財産」を発見するきっかけとなることなどから認められている措置です。
10.旅行などの制限あり
自己破産した場合の旅行制限などについては、多々誤解があるようです。その中でも、パスポートの申請ができない→海外旅行ができない、という誤解が一方の極端だとすると、他方においては破産手続中は裁判所の許可を得ればほとんど問題なく海外旅行もできるという意見もあるように見受けられます。
破産法上の根拠
破産手続中の旅行制限については法律に根拠があります。
破産法37条1項において、
「破産者は、その申立てにより裁判所の許可を得なければ、その居住地を離れることができない。」
と定められています。
この「居住地を離れること」には、引っ越しも海外旅行・国内旅行も含まれます。
旅行制限は管財事件の進行中に限定される
「破産者は」となっていますので、「居住地を離れること」に裁判所の許可が必要となるのは破産手続が進行中の場合であることが前提であり、これは管財事件(少額管財を含みます)となって破産管財人が選任されている場合に限られます。
同時廃止には旅行制限はない
同時廃止の場合には、そもそも海外旅行も含めて「居住地を離れること」に裁判所の許可は必要となりません。
もちろん、同時廃止の場合でも、免責審尋期日などには破産者は出頭しなければなりませんので、海外旅行中でも期日には日本に帰国して裁判所に出頭する必要があります。
管財事件における旅行制限の理由
このように、破産者が「居住地を離れること」には裁判所の許可が必要だとされるのは、管財事件においては、破産者の協力が様々な場面で必要となることがあり、常に連絡できる状況にあることが必要だからです。
つまり、管財手続における破産管財人の業務は財産の調査・処分や免責不許可事由の調査などが主たるものとなりますが、破産者と連絡がとれなくなるとそのような破産管財人の業務に支障が生じるおそれがあるからです。
そのため、「居住地を離れること」に裁判所の許可が必要だとされますが、その前提として破産管財人の実質的な同意・了承が必要となります。
この裁判所の許可を求めるには、例えば、海外旅行であれば、その旅行目的や旅行先・期間などを明確にする必要があるでしょうし、場合によっては費用の出所を明確にする必要もあるでしょう。費用の出所を明確にするのは、破産申立に際して申告した財産の内容・金額と旅行費用の整合性がとれており、隠し財産などないことを破産管財人及び裁判所に納得してもらうためなどに必要となるからです。
まとめ
管財事件が進行中に海外旅行するには、許可を得るためにそれなりの準備が必要であり、少々許可手続が面倒であるという点において、旅行などの移動制限は自己破産におけるデメリットになると言えるでしょう。
自己破産について誤解されやすいこと
住居からは追い出されてしまう?
自己破産を行うと所有するマイホームは処分しなくてはなりませんが、アパートやマンションなど賃貸の住居はそのまま住み続けることができます。自己破産をするとアパートやマンションからすぐに追い出されてしまうということはありません。もちろん、家賃は支払う必要があります。
また、最近は敷金を差し出す必要がないという運用をする裁判所が東京地裁をはじめ多いようです。
財産はすべてとりあげられてしまう?
自己破産をすると財産をすべて失うのではないかと思っている人がいますが、そんなことはありません。実は、ある程度の財産を法律の定めや裁判所の運用により確保できるのです。
確かに、破産においては、一定額以上の財産は処分・換金されて債権者へ配当等にまわされます。
しかし、法律で定める基準や裁判所の運用基準を超過しない財産は手元に残すことが可能です。例えば、20万円以下の預貯金などは、手元に残せますし、99万円までの「現金」も差押禁止であり、手元に残すことができます。
ただし、この手元に残せる現金の額は、実際に手元にある金額により、同時廃止となったり、(少額)管財事件となったりするため、実際に残る金額は違ってきます。
戸籍・住民票に掲載される?
自己破産をすると戸籍に掲載されると勘違いされている方がいますが、決してそんなことはありません。住民票にももちろん記載されることはありません。
「破産者名簿」とは?破産すると必ず掲載される?
これは、戸籍に関する事務をつかさどる市区町村が作成管理している破産者に関する名簿です。破産することで制限される資格や職業(警備員や生命保険外交員、弁護士、税理士など)に就く場合に、これらの資格制限がないことの「身分証明書」を発行するために備えられた名簿です。
「身分証明書」の発行は、本人はもちろん申請できますが、本人以外では配偶者、父母、子などの一定の身近な親族に申請権者は限定されています。
この「破産者名簿」は非公開であり、第三者が閲覧を申請することはできませんので、一般の人に見られることはありません。
以前は、「破産者名簿」への記載は破産申請してから免責許可がおりるまでの期間に限定されていました。
しかし、最近の破産法の改正(新破産法:平成17年1月1日施行)により、自己破産をした人すべてが直ちに「破産者名簿」に掲載されるわけではなくなりました。免責申立を取り下げるなど(普通はちょっと想定できない事態ですね)、破産・免責手続きが途中で終了したり、免責が不許可となったりした場合などに限って、裁判所から市区町村への通知により掲載されるだけです。
ですから、今日では、この「破産者名簿」に記載される場合というのは、破産手続を利用しても実際にはほとんどないと言えますので、気にする必要性は官報よりも更に少ないでしょう。
選挙権がなくなる?
破産者になっても選挙権が失われることはありません。
家族に迷惑がかかる?
家族に何らかの悪影響が及ぶのではないか、という漠然とした心配をされる方もいらっしゃるかと思いますが、例えば、親が破産すると子供の学校に通知が行くといったことはありませんし、家族が保証人になっていない限り、妻、夫、こども、親という近親者であっても、当然に破産者の借金を肩代わりすべき義務は制度的にはありません(みずから任意に肩代わりする場合は話が別です)。
家族への悪影響を心配されるのであれば、完済の目処が全く立たない無理な支払いを続けるデメリットやそもそも支払いできない状態を放置したままでいるリスクを考えるべきではないでしょうか。
自己破産についての注意事項
「非免責債権」について
自己破産が認められ、免責決定が出されたとしても、破産法上、免責されない借金というものがありますので、注意が必要です。
- 租税等の請求権
例えば、税金を滞納している場合、その税金は免責にはなりません。なお、年金保険料や国民健康保険料も同様です。 - 悪意・故意または重過失による損害賠償請求権
悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権や、故意または重過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権を指します。 - 婚姻費用や養育費など
養育費など扶養義務者として負担すべき費用に関する請求権 - 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権および使用人の預かり金の返還請求権
- 自己破産者が知っていながら債権者名簿に記載しなかった請求権
- 罰金等の請求権